皆さん、こんにちは。
私は日常的に思春期や青年期の子ども達と接する機会が多く、心理療法を通して、長期的に彼らに関わることがあります。

ここ数年、彼らと接していて感じることは、自分の悩みの内容を語る力が落ちていて、本人自身も何を悩んでいるのかわからないことが多い点です。

彼らは、一見淡々と毎日を過ごしているように見えても、実は、漠然と何かに困っているのです。

しかし、彼らには悩みを語れるだけの力が育っていないために、こちらが何を質問しても「別に」「普通」「びみょう」「わからない」などの返答しかできないのです。

今回は、ある事例を紹介しながら彼らの心理を詳しく解説していきたいと思います。

“何となく人といると緊張するんです・・・”

A君は、有名な私立中学校へ進学し、何一つ不自由なく、順調に過ごしてきた男の子でした。

2人兄弟の弟であったA君は長男に比べ、手のかからない良い子であったとお母さんは言います。

ただ、昔から自己主張が少ないという心配はしていたそうです。しかし、成績は良く、バスケットボール部でも主将を務め、友人関係も順調にいっていたので、特に問題を感じなかったといいます。

彼が有名大学の付属高校3年になり、半年後に大学進学を控えていたある日、突然、不登校になってしまいました

父親が、どんなに説得しても学校には行けませんでした。

父親が理由を聞いても「分からない・・・でも行けない」の一点張り。

友人が誘いに来ても会わなくなり、自宅ではパソコンに一日中向き合うことが多くなりましたが、自宅ではそれなりに元気に過ごせていたのです。

困り果てた親御さんが私の相談室にお越しになりました。そして、その数日後に、彼も私のところに会いに来ましたが、彼と会話を重ねていく中で、その原因が徐々にわかってきました。

彼は、私との対話を通して、丁寧に自分自身と向き合い、気持ちを整理したことで、やっと自分が困っていることが、ある程度理解できるようになったのです。

要は、それまでは、彼は「自分が何を悩んでいるのか」ということを、まったく分からない状態だったわけですね。

“わからない・・・”を訴え続けるA君

セラピー開始当初、私と彼とのやり取りは終始、以下の様な感じでした。

(私)「今、何か困っていることはありますか?
(A君)「分からない・・・
(私)「学校か何かで嫌なことでもあったかな?
(A君)「何も・・・
(私)「家ではどのように過ごしているの?
(A君)「別に・・・
(私)「お母さんとかお父さんはどんな人?
(A君)「普通・・・分からない・・・

彼との面接での特徴は、「わからない」という言葉が多かったことです。本当にわからないようでした。

また、私の問いかけに対して、反射的に、一言、二言答えるだけのコミュニケーションしか取れないようでした。

その様な会話を何度も繰り返していくと、徐々に彼は自分の苦しみを自分で理解し語れるようになってきました

何となく人といると緊張するんです・・・たぶん・・・(沈黙)・・・何となく居心地が悪い感じです。何がいけないというわけでもないのですが、何を話せばよいかわからないんです

彼の場合、人前で、どのように振る舞えばよいかわからない。でも、それを何とかしなくてはならないという強い気持ちもない。また、これと言って明確な症状もほとんどない。

夜になると、人目につかない程度にランニングには行く。でも、友達には合わないし、会いたくない。携帯は全て着信拒否にしているわけです。

彼の悩みは、対人場面での緊張感や対人場面に居られないという苦しみや、人とどのように付合えばよいか分からないなどの悩みから考えると、「対人恐怖症」と見立てることが出来ます。

自分の弱さを見透かされる怖さ

A君との面接を続けていくと、徐々に対人恐怖症の背景にあるA君なりの想いが語られるようになりました。

彼は「自分が本音を言うと周りは離れていくと思う。たぶん、弱い自分は受け入れてもらえないと思う。だから人と関わることは自分の弱さを見抜かれるかもしれない怖さと不安がある」と語ることが出来たのです。

彼は友達付き合いなどで表面的に見せている自分の背後にある本当の姿を暴かれたら、「相手にしてもらえないかもしれない」という強い不安(見捨てられ不安)を抱いていたわけですね(☜ これは多くの場合、親に抱いている感情でもあります)。

このように自分の悩みの内容を語る力が落ちていても、心理療法を通して、丁寧に、具体的に気持ちを整理していくことで、「一体、自分は何に悩んでいるのか?」ということが語れるようになります。

これは「カタルシス」という心理学用語がありますが、自分の悩みを自分の言葉で自由に語ることが出来るようになると、それだけで気持ちがラクになり、本来の自分の力を取り戻せるようになってくるのです。