目 次
皆さん、こんにちは。
皆さんは、ご自分に対してどのような印象を持っているでしょうか。
自分のことが大好きという方は素晴らしいことですが、中には自分のことが好きになれないと思っている方もいらっしゃると思います。
今回はその中でも『自分のことが大っ嫌い!』というケースをご紹介したいと思います。
高校生 女子 A子さん
A子さんは、高校在学中クラスの女子グループの中に入ることができず、不登校になってしまいました。
自分から声をかけようと思っても、なぜか強い不安に襲われ、次第に学校自体が怖くなってしまったのです。
やがて「皆が自分を嫌っている。自分はいらない人間だ」と思うようになってきました。
家庭内では、その感情を泣いて訴えることが多くなり、また物を投げたり壊したりするようにもなり、次第に母親に対する暴言・暴力へとエスカレートするようになりました。
A子さんには、自傷行為もあり、日に日にリストカットの回数が増えていき、左腕の手首は傷だらけになっていました。
その反面で、「モノ」に対する執着も強く、自分の欲しいものは、どんなに高いものでも買うことを要求し、もしそれが拒否されると、手が付けられないほどに激しく暴れだし、家の中にあるモノを破壊するようになり、窓ガラスや食器類といった割れそうなものは、ことごとく壊されてしまいました。
気分の浮き沈みが激しいジェットコースター
このような激しい暴言・暴力がない時は、一転して無気力で、虚無感と抑うつ感が強い状態でした。
しかし、学校の先生や友人から電話がかかってくると人が変わったように立派に対応するというのもA子さんの特徴でした。
A子さんは、こんな風になる前は、極めておとなしく、真面目で、母親にも可愛がられ、どちらかと言えば、仲の良い親子関係にありました。
では、どうしてA子さんは、こんな風になってしまったのでしょうか?
良い子の落とし穴?
A子さんの様に、思春期・青年期になって心の問題を抱える方の多くは、幼少期から学童期の頃は、実に素直で、聞き分けもよく、成績も優秀であったり、いわゆる「よい子」が多いのが特徴です。
高校を中退したA子さんは、その後、実家から少し離れた町の高校に転校しましたが、そこでも馴染めないという理由から、一挙にこのような破壊的、衝動的な行動がエスカレートしてしまったのです。
困り果てた家族が病院を訪れ、専門家とのカウンセリングが始まったそうです。
こうなったのはお母さんが悪い!
カウンセリングでは、「自分でも自分が大嫌いなのですから人に嫌われても仕方がないですね。生きている実感がまったくない。自分という人間がなんだかわからない・・・」と訴えていたそうです。
一方で、主治医の先生に対して気に入らないことがあると急に怒り出し、「医者だからって威張るんじゃない!お前はそれでも専門家か!」と日頃の態度からは全く想像できない言動が表れ、その場で自分の荷物を壁にぶつけ、ガラスの破片が散らばるといったこともありました。
家では引き続き、母親の言動に対して突然激しい怒りを表し、「お母さんは黙っていてよ!人のことに口出さないでよ!そもそもこうなったのはお母さんの育て方が悪かったからだ!」と、母親に対して、殴る・蹴るの暴力が見られました。
さらに服薬自殺未遂(OD)は、すでに複数回におよび、時にはお腹にナイフを刺したり、一方で母親への甘えは強く、いつも母親に見捨てられることを恐れていました。
臨床心理学では、A子さんの様な症状を「境界性パーソナリティ障害」と呼んでいます。
境界性パーソナリティー障害って?
この障害の特徴は:
- 気分がまるでジェットコースターのように目まぐるしく変化する
- 周囲への評価が、自分にとっての味方⇔自分にとっての敵と激しく入れ替わる
- 怒りが外(他人)に向けば暴力、内(自分)に向けば自傷行為になってしまう
根底には「耐えがたい寂しさ」を抱いていて、「人は必ず自分を見捨てるはずだ」という強い見捨てられ不安を抱えています。
と同時に、彼らは、周囲の顔色や感情に非常に敏感な一面があり、常にアンテナを高く張っています。
「自分を受け入れてくれる存在なのか」、もしくは「自分から離れていく、見捨てる存在なのか」ということをいつも考えています。
こんな私でも、お母さんの子でいいの?
A子さんは、母親の前では、激しい感情の揺れ動きと暴言・暴力などを露わにしていますが、A子さんの心の叫びは「こんな自分でも、ちゃんと受け止めて!」というものです。
そもそもA子さんがどうして自分のことが大嫌いかというと、親の期待するように自分が育っていないと感じているからです。
どこかで親は、こんな惨めな自分を見捨てるんじゃないか?、いつか見切りをつけられてしまうんじゃないか?と不安で怯えているわけですね。
その不安を一時的に払しょくするために、親への暴言・暴力、時には自傷行為を繰り返しているのです。
助けを求める勇気を持つこと
A子さんにとって「大嫌いな自分」が、「ちょっと嫌いな自分」くらいにならないと楽にはなりません。
「自分はまあまあよくやっている。こんな自分でもそう捨てたもんじゃない」と思えるようになる感覚が必要なのです。
そこまで到達するためには、ある程度の時間と労力がかかってしまうかもしれませんが、A子さんの年齢を考えれば、まだまだ改善の余地はあります。
家族だけで問題を抱え、何とかしようとするのではなく、適所で専門家のサポートを利用すること、助けを求める勇気を持つことが、A子さんの様なケースには必要になってくるのです。
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