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皆さん、こんにちは。
先日の児童虐待のニュースで「代理ミュンヒハウゼン症候群」という言葉が使われていましたが、初めて耳にした方も多いのではないでしょうか。

簡単に説明すると、ミュンヒハウゼン症候群とは、本当は健康なのに、自らが病気やケガをよそおうことで、「自分に関心を集めたい」という心理的な欲求を満たそうとする精神疾患です。

代理ミュンヒハウゼン症候群とは、病気のフリをする対象が自分ではなく、自分の「代理」、多くの場合は「自分の子ども」という意味です。

精神医学的には、「虚偽性障害」に分類されます。

つまり、「ウソをつく病気」ということですね。

主な特徴としては、

  • 多くの病院に頻繁に通っている
  • 病気や症状についてとても詳しい
  • 子どもの症状が検査結果や治療結果と結びつかない
  • 通常なら心配や不安になりそうな場面に出くわしても、まったく動揺しない
  • 子どもの状態が悪いときには冷静で、症状が改善すると動揺するなど。

代理ミュンヒハウゼン症候群も児童虐待に分類され、虐待の種類の中でも、見抜くことが難しい特異な形として認知されています。

一見すると、病気の子どもをかいがいしく面倒見る「良い母親」に映るので、周囲はその状況が作られたものだと見抜くことが難しいのです。(そもそも、子どもの病気を疑う人はあまりいません。)

また、周囲が気付きにくいのと同様に、母親自身も自分の問題に気付かず、病識を持ちづらい傾向があります。

わざとやっていることなのに、それが間違いであるという認識ができないのです。

代理ミュンヒハウゼン症候群の母親の心理

では、このような症状を抱える母親は、なぜわざわざ子どもを病人やケガ人に仕立て上げる必要があるのでしょうか

心の根っこのところは、虐待をする母親と同じ心理があります。(「まず母親を守る!虐待する母親が目指していたものとは?」参照

代理ミュンヒハウゼン症候群になる母親たちもまた、周囲の期待に応えようと、自分を押し殺して、完ぺきな子育て、完ぺきな母親を目指した結果、間違った方向に行ってしまったのだと推察されます。

虐待をする母親の中でも特に、承認欲求の高い人たちがこの症候群になりやすいと考えられます。

これまで、無条件に受け入れられたり、十分に承認された経験がなく、承認に飢えていたところに、「病気の子どもを無条件で介護する母親」や「子どもを失った不幸な母親」として初めて周囲から関心を向けられた(承認された)ことで、承認される喜びを知ることになります

すると、ダムが決壊したかのように、今まで満たされなかった承認欲求が「介護する良い母親」や「かわいそうな母親」へと向かっていきます。

その後も、承認欲求を満たすためには、子どもが常に病気である、怪我をしている、もしくは瀕死の状態を作り出す必要があるのです。

本人にしてみれば、自分の承認欲求を満たすことが第一になっているので、自分のやっていることは正当であり、子どもの状態が優先されることはありません

虐待を受けた子ども達のその後

このような母親の下で育てられた子どもたちは、どのような大人になるのでしょうか。

虐待死の件数が最も多いのは0歳児で(全体の約40%)、子どもの体が大きくなるにつれて、虐待死は減っていきます。※オレンジリボン運動

運よく生き残ることができても、虐待された記憶や精神的なダメージ、歪みを持ったまま成長していくことは十分考えられます。

多くの虐待被害児と同様、自分に対して肯定的な感情(自己肯定感)を持てずに育ってしまうので、いつも自信がなく、不安の強い子になります。

「このままの自分で愛される」という確信が持てないので、常に「このままの自分では愛されない、もっと努力しなければ、もっといい子にならなければダメだ」という偏った確信を持ってしまうのです。

特に、代理ミュンヒハウゼン症候群の母親に育てられた子ども達は、常に病気であることを求められてきたし、病気であれば母親が優しく、安心している様子を見てきているので、病気でいる方が安心します

そのうち、自分が元気でいることは、母親を悲しませる良くないことだと学習し、母親の機嫌を察知して、どこも悪くなくても病気のフリをしたり、病気であるように装います

子ども自身もミュンヒハウゼン症候群に似てきて、体の不調を訴えて病院に行くもどこも悪くないと言われ、それに納得がいかずいろんな病院を渡り歩き、最終的に「心気症」と診断されることもあります(「心気症」とは些細な不調が気になって、本当は重い病気なのではないかと不安になってしまう症状)。

このような歪みを抱えたまま大人になり社会に出ると、いろいろな場面で苦労することは簡単に想像できますね。

そして、結婚して子どもが生まれ母親になると、今度は子どもを対象にする代理ミュンヒハウゼン症候群の母親となり、世代間連鎖が完成します。

この世代間連鎖を断ち切るためには、過去の記憶を清算し、満たされなかった承認欲求を満たし、自己肯定感を高めていく必要があるのですが、これがなかなか大変な作業になってきます。

しかし、どこかで自分と向き合わない限り、本当の意味での自分の幸せ、家族の幸せは訪れないということを是非知っておいてください。

母親業は苦行

今回は、代理ミュンヒハウゼン症候群という名前が付いたケースですが、ここまでひどいケースではなくても、二、三歩手前のケースは沢山あります。

それらの代表的なくくりが「心配性」です。(「心配性の母親」参照

現在の日本では、子育てをしている母親はそもそも承認されることがあまりないので、承認欲求が満たされることがないのはある意味当然のことなのかもしれません。

日々の育児はとても大変な「苦行」です。

子供の安全を守るために一つ一つの動作に神経を使い、与えるだけ与えても誰も褒めたり労ったりしてくれず、自分の時間や自由はすべて奪われ、やってもやってもきりがありません。

こんな大変な苦行をしているのに、母親なんだから子育てができて当たり前、深い愛情を持って子供を育てることが当然のように考え、「問題が起きると全て母親の責任」のように言う人もいます。

些細なことで自信をなくし、できない自分を責めて苦しんでいる母親は少なくないと思います。

社会全体で取り組むべき問題

少子化が問題視される中、虐待の件数は増え続け、自殺する子どもの数も増え続けています

子どもが生きる権利を奪われたり、自ら死を選ぶ国が、本当に幸せな国なのでしょうか?

子ども達に今の日本をこのまま引き継いで良いのでしょうか?

虐待を防ぎ、お母さん達、ひいては子ども達を守るためには、社会全体でもっと母親という存在を認め、母親業の大変さ、苦しさ、尊さをもっと重要視する必要があるのではないでしょうか。

おやこ心理相談室としては、世の中の母親はもっと評価されるべき存在だと思って、声を上げています。

誰だって、認められると嬉しいものです。

その嬉しさが間違った方向に行かないように、日々お母さんたちを支えていきたいと思います。

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