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皆さん、こんにちは。
いつもおやこ心理相談室をご利用いただき、ありがとうございます。
この時期の子ども達が訴えやすい症状の一つに、無気力症や燃え尽き症候群(スチューデントアパシー)というものがあります。
これらの症状の裏に、実は親子の共依存関係というものが隠れていることも少なくありません。
無気力状態をケアせずに放置したり、そのまま共依存親子の関係を続けていくと、その先に不登校、ひきこもりやニート、セルフネグレクトといったさらに深刻な問題が見えてくる可能性があります。
内閣府によると、2022年の推計で、15歳から64歳までの「ひきこもり」の人数は146万人に上り、40代以降のひきこもりの増加も深刻な問題になっています。
この数字の陰に親子の共依存関係が隠れているとしたら、相当な数の共依存親子が存在するということが想像でき、それだけ多くの方々が親子関係の問題で苦しんでいるということになります。
☘ 共依存って何?
さて、皆さんは「共依存」という言葉を聞いたことがありますか?
共依存とは一体どういう関係のことを言うのでしょうか?
共依存とは、簡単に言うと、お互いに依存しあっている二者関係のことです。
例えるなら、ふたつのお餅がぺったりとくっついているような状態に似ています。
一度ぺったりとくっついてしまうと、なかなか離れることが難しくなってしまいます。
密着が強い場合は、お互いがまるで同じ感情を感じて、同じように行動する、そんな状態にまで発展することがあります。
たまに、母親と娘が同じような服装や髪型をしていて姉妹のようにふるまう母子がいますが、ここまで密着している状態は、「母子カプセル」と呼ばれます(☞「実はとても怖い“母子カプセル化”」参照)。
共依存の核心には「他者をコントロールしたいという欲求」があります。
人に自分を頼らせることで相手をコントロールしようとする人(共依存者)と、人に頼ることでその人をコントロールしようとする人(依存者)との間に成立するような二者関係を『共依存』と呼びます。
「共依存」は、恋愛関係、親子関係、友人関係など、どのような間柄でも起こる可能性があります。
分かりやすい例で言えば、DV夫婦やDVカップルのような男女関係の根っこには、共依存関係があることが多いです。
女性が『世話を焼く人』、男性が『世話を焼かれる人』というような支配する者と支配される者という共依存関係です。(実は被害者のように見える女性が支配権を握っているのです。)
同じような支配関係が親子関係で起こるのが、「共依存親子」と言われるものです。
まさに、『世話を焼く大人』と『世話を焼かれる子ども』という支配する者と支配される者という共依存関係です。
共依存親子は、問題行動を繰り返す息子や娘と親(特に母親)、の間で生じやすいとされています。
前出の“母子カプセル”とか“マザコン”という状態も共依存の形の一つです。
こうした支配関係の共依存では、お互いに相手をむさぼりつくすことになってしまうので、「憎しみながら離れられない」とか「軽蔑しながらいないと寂しい」といった愛憎劇が展開していきます。
☘ 共依存の特徴
それでは、共依存関係になりやすい人の特徴を見ていきましょう。
① 人との境界線が引けない
共依存関係を作りやすい人は、他人(自分の家族でも)との境界線が引けていないことがほとんどです。
境界線が分からないといってもいいかもしれません。
他人のことでも自分のように考えているので、必要以上に世話を焼いたり、心配したりします。
また、他人のプライバシーに平気でずかずか踏み込んで、踏み荒らしていくことも日常茶飯事です。
勝手に部屋に入るのはもちろん、書類や日記などにも勝手に目を通したり、スマホを管理したり、相手のすべてを把握しようとします。
他人の秘密を暴くことに罪悪感がなく、そのうえ、そのことを平気で口外し、自分勝手な基準で「それはダメだ」と批判してきます。
親ならば、子どもの部屋に勝手に入り、引き出しやスマホの中身も勝手に見て、子どもの友人関係などにも口を出して、「あの子は良くないから、付き合わない方がいい」などと口を出してきます。
それが大人になっても、結婚して家庭ができても、ずっと同じように続いていくこともあります。
さらに、他人に対しての要求が多く、一度それに応えるとどんどん要求がエスカレートしていき、それが当然になっていくので、応え続けることを要求されていきます。
勇気を出してこれらの行動を非難したり、要求を断ると、今度は異常に落ち込むので、断ったことに対して罪悪感を植え付けられます。
それが続くと、受ける側が「断ると悪いことをしているような気分」になってきて、断り切れなくなって、共依存関係が成立してしまいます。
通常の分別がある人が見たら、これらはすべて「ただの迷惑」もしくは「ありがた迷惑」な行動と分かりますが、長い間(それこそ子どもの頃から)この関係性の中にいたら感覚が鈍麻していき、近すぎる親子関係に気が付くことは難しいでしょう。
② 自己肯定感が低く、自己犠牲精神が強い
また、共依存関係にある方たちは、往々にして自己肯定感が低いという特徴があります。
常に自分に対して「これでいい」と思えず、自信が持てないので、その自信の低さを他人の世話をすることで埋めようとします。
それは、自分の気持ちや欲求を抑えて、自己を犠牲にすることもいとわないほどなので、傍から見たら、自己犠牲精神がとても高い人のように見えます。
相手が求めていなくても、その要求を先読みして勝手に行動したり、相手に嫌われないようにと、必要以上に尽くしたりします。
度が過ぎる親切・お節介、世話好き、惜しみなく相手に尽くす人、愛情深い人…。
こういう風に評価されることに自分の存在意義を見出すので、「自分はこれでいい」「私の居場所はここだ」と思うようになります。
DV被害に合っても、「この人には私が必要」とか「私が何とか支えてあげなくちゃ」と考えるのも自己肯定感の低さの表れです。
親子の場合は、どんなに子どもに否定されようと、奴隷のように扱われようと、「この子には私が必要」と考えているので、自分を犠牲にしても子どもに尽くしていくのです。
それこそ、子どもに尽くすことだけが、自分の生きる意味だと言わんばかりです。
本当は「このままではいけない」とうすうす勘付いていても、本当の自分の心の声を聞くことも怖いし、自分の考えや意見に自信がないので、あえてそれらを聞かないようにしたり、否定してしまう傾向があるのです。
③ 家族(夫婦)が機能していない
共依存関係にある方たちの多くは、子どもの頃に本来親からもらうべきものをもらわずに成長してきたという過去があります。
いわゆる“機能不全家族“で育ったので、機能している家族というのがよくわからず、機能不全家族の方が馴染みがいいため、無意識に自分でも機能不全家族を作ろうとしてしまいます(機能不全家族については今後のコラムで詳しく解説します)。
機能している家族は、世代間の境界線が引けており、ある程度の夫婦の共依存関係があって夫婦が依存しあいながら、それなりに上手くやってます。
例えば、お互いのグチを聞きあったり、口に出さなくても気持ちが分かったり、「あれ」と「それ」で会話が成り立ったりするのは、ある程度お互いに依存しているからです。
しかし、夫婦の仲が悪く家庭が機能していない場合、本来夫婦間で築かれるはずのこれらの共依存関係が、母親と子どもとの間で築かれてしまうのです。
子どもが母親のグチを聞くカウンセラー役をやっていたり、母親の気持ちが手に取るように分かったりします。
母親は、夫よりも子どもとの関係の方が近く、夫よりも子どもに受け入れてもらうことに安心を感じています。
そこには世代間の境界線がなく、共依存関係が親と子と世代間連鎖しているというわけです。
これらの行動は、本来生物学的に不自然なことなので、「なんか気持ち悪いな」という感情を生むことでお互い本能的にストップがかかるのですが、共依存親子はこれらの行動の不自然さに全く気が付きません(気が付いていたとしても、感じないようにしています)。
④ 共依存にあることを見ないようにしている
共依存関係にある方は、自分の居心地の悪さなどの感情に目を向けようとしません。
人間本来備わっている「感じる」という能力を忘れてしまっている人も少なくないのです。
共依存者は、傍から見たらよく世話を焼くいい人に見えますが、実際は自分で自分に依存するように依存者を作り出して、その相手をコントロールすることで、自らのコントロール欲求を満たしているに過ぎません。
これが一時的にうまくいくと、相手をコントロールする自分の能力に自信を持つことになります。
その結果、同じような関係性を繰り返していくので、なかなか共依存関係から抜け出せません。
万が一、自分の共依存気質に気が付いていたとしても、いくら周囲からやめろと言われても、その関係を手放すことが怖すぎて手放せないのです。
共依存関係にあるうちは、自分の存在価値や自信のようなものを感じることができますが、それがなくなってしまうと自分という存在がガラガラと崩れ落ちていくような恐怖に襲われてしまいます。
このように、共依存関係にある人たちは、自分ではどうしようもできない状態にあることが多く、この心理状態を理解して対応する必要があるのです。
☘ 共依存親子簡単チェック
共依存親子かどうかを簡単にチェックしてみましょう。
お子さんは、母親のことを「かわいそう」だと思っていますか?
もしくは、あなた自身は、自分の母親を「かわいそう」だと思っていますか?
これらの質問にYESと答えた方は、共依存親子である、もしくは共依存親子を作り出す可能性が高いです。
というのも、母親がかわいそうだと思っているということは、すでに母親と父親の夫婦関係が機能していないという証拠です。
両親の不仲・考え方の不一致、父親の長期不在・父親の存在が薄い、父親のDVや各種依存症、その他の理由で父親の存在自体が弱い場合、子どもは母親が「かわいそう」という幻想を抱き、かわいそうな母親を何とか守らなければと奮闘した結果、母親との共依存親子になってしまうのです。
子どもからしてみれば、必死に母親を守ろうと頑張ってきて、いざ大人になって巣立ちのときが来たら、今度は自分が母親から離れられなくなってしまったというわけです。
よく注意しておかないと、もともと関係性の近い母親と子どもは、いとも簡単に共依存関係になってしまいます。
☘ 共依存親子は卒業できる!
しかし、適切なケアを受けることで、共依存親子からの卒業は十分に可能です。
当相談室でも、共依存関係を改善した経験が何度もあります。
その結果、親も子も自分らしくイキイキと幸せに生きている親子がたくさんいます。
- 母子カプセルから卒業し、自分の意志で復学・進学したケース
- 母子カプセルを卒業し、恋愛し結婚して、子どもを授かって、実家をうまく利用しながら子育てに奮闘しているケース
- ひきこもりから卒業し、一人暮らしを始めて、経済的にも精神的にも自立したケースなど
年齢に関係なく、共依存親子を卒業することは可能です。
親からしてみても、共依存親子を卒業するということは、この先親がいなくても、子どもが自分で生きていけるという安心につながります。
そして、この子どもの自立という安心感を得たときこそが、子育てが成功したという実感が持てるときなのではないかと思います。
当相談室における共依存親子のご相談に関しては、親御さんからの直接のご相談と、子どもたちからのSOSを受け取ってのご相談と2つのパターンあります。
子どもたちのSOSは様々な問題行動として表れることが多くあります。
特に問題が長期化しているケースの場合には、その問題の背景に親と子の共依存関係が隠れていることが多く、その関係性にアプローチしていかない限り、問題の本質的解決には至らないことが多いのです。
子どもがSOSを出してくれているとしたら、これはとてもありがたいことです。
親子の共依存を卒業するチャンスです。
学校に通っているなら、学校とのつながりの中で支援はいくらでも受けられます。
しかし、大人になればなるほど、利用できる行政の支援は減り、時間もお金もかかります(当相談室は大人の問題も扱っており、単回だけのご利用も可能です。)
子どものSOSに気が付いたら、躊躇せず、なるべく早めに対応することが大切です。
☘ お母さんが悪いわけじゃない!
最後に誤解のないように伝えておきたいのですが、共依存の問題において、決してお母さんが悪いとか、お母さんが間違っているということはありません。
お母さんも十分苦しんでいます。
どんなに苦しくても助けを求められないのは、様々な環境要因も大きく、お母さん一人が悪者ということは決してありません。
もし、親子関係の不自然さにうすうす気が付いていたけど、どうしていいか分からなかったとか、親子(夫婦)関係が苦しくて、でも我慢するしかないと思っていたということがあれば、誰かに助けを求めるという選択肢をぜひ実行してみてください。
当相談室では、数回のご利用で、親子関係のコツを学習し、それらを意識することで関係が改善し、親子関係がラクになられたというケースもたくさんございます。
助けを求めることは悪いことではありません。
あなた自身の幸せ、ひいては子どもの幸せのために、勇気を持って助けを求めてください。
子どもに依存しなければやっていけなかった、あなたの気持ちを一つ一つ丁寧に扱っていきたいと思います。
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