皆さん、こんにちは。
いつもおやこ心理相談室をご利用いただき、ありがとうございます。
以前の共依存親子のコラムでも少しだけ触れましたが、今回は“機能不全家族”について解説していきます。
皆さんは、“機能不全家族”という言葉を聞いたことがありますか?
機能不全家族とは、その名の通り、家族としての機能を果たしていない家族のことを言います。
もともとは、アルコール依存者の家族ケアに関する臨床研究の中で生まれた言葉で、“家族”という名の通り、家族療法の流れを汲む言葉です。
今では、子どもが虐待を受けている家族、親がアルコールやギャンブル依存症の家族、父親のDVを受けている家族、両親の不仲、共依存親子、母子カプセル、ヤングケアラーなど、様々な問題を抱える家族に対して使われることがあります。
言い換えれば、ほとんどの家族の問題の影には家族の機能不全が隠れているといっても過言ではないでしょう。
タイトルにもありますが、「日本の家族の80%が機能不全家族」とも言われています。
このフレーズは、私が大学院の頃に師事していた先生が自身の診療経験に基づいて発表したものです。(参考文献:「機能不全家族」西尾和美著)
当時、この言葉に大きな衝撃を受けたことを今でもハッキリと覚えています。
しかしそれも20年前のことなので、現在では80%という数字すらも変化しているだろうと想像できます。
☘ 機能不全家族とは?
一言で“機能不全家族”と言っても、この概念はとても広く、ここでは語りきれないので、かいつまんで分かりやすく解説させていただきます。
まず、通常機能している家族において、家族のメンバーはそれぞれ役割があります。
例えば、大人は稼ぎ手と管理者(家族の意思決定をする人)という役割を担っており、子どもに対しても、情緒的サポートをする役割、教育を受けさせる役割、社会的な倫理やルールを教える役割など、いろいろな役割を担っています。
これらの親の役割のもとで、子どもたちは状況に応じていろいろな役割を学び、自らも役割を選ぶ能力を身につけていきます。
子どもたちが持つ役割とは、家族を引っ張っていくファミリーヒーロー、問題を起こすスケープゴート、どんな環境にも順応するロストチャイルド、なだめ役のプラケーター、にぎやかし役のマスコットなどです。
※ 子どもの役割についてはこちらを参照「一家の平和を望む子ども①②③」
しかし、機能不全家族においては、大人の役割が適切に果たされていない、もしくは大人と子どもの役割が逆転しているということが起きます。
その結果、子どもたちは自分で判断して役割を選ぶことができず、自分が生き延びるためにどう振舞ったらいいかという基準で選んだ「役割」に固定されてしまいます。
この「一つの役割に固定される」ということがのちのち問題になってきます。
なぜなら、子どもは本来いろいろな役割を行ったり来たりする中で、柔軟性や自律性、感情のコントロールなどを身につけていきますが、一つの役割に固定されてしまうと、これらの能力を身につけることができなくなってしまうからです。
その結果、心が成長できずに体だけ大人になってしまう、いわゆる“アダルトチルドレン”という大人になってしまうことも多いのです。
このように、家族が本来果たすべき役割が適切に果たされていない状態の家族を「機能不全家族」と呼びます。
☘ 機能不全になる原因!?
では、なぜ機能不全になってしまうのでしょうか?原因はいろいろあります。
例えば、
- コミュニケーション不足
- 親の一貫性の無さ・予測できない行動
- 親の精神的・身体的な病気や障がい
- さまざまな依存症
- 両親の不仲
- 過剰な批判・虐待
- 過剰な期待・決めつけ
- 過保護・強すぎる密着
いくつかの理由が複合的に絡み合っている場合も少なくありません。
コミュニケーション不足(そもそも会話が無い)が家族の機能不全を引き起こすことは、想像に難くありませんね。
家族とレストランで食事しているのに、それぞれがスマホばかり見ていて何も会話をしないという家族も最近よく見かけるようになりました。
会話を通してでしか果たせない親の役割というのもあります。
日常の何気ない会話でも、どんな些細なことでも、家族のコミュニケーションの持つ力は良くも悪くも計り知れないほど大きいのです。
また、これらの原因の中でも機能不全家族の一番の指標になると思われるのが、親の一貫性の無さ・予測できない行動です。
一貫性の無さとは、昨日と同じことが今日もあるとは限らないという不安定さを植え付けます。
そして、予測できないことが起こるということは、あらかじめ心の準備ができないということ、いつもいつも何かしらの出来事(たいていはネガティブなこと)に対しておびえて過ごさなければならないということです。
いつ始まるか分からない夫婦のケンカやアルコール依存症の父親のDVなどが代表的な例ですが、不安が強い母親の言動の一貫性の無さなどもこれに当てはまります。
こういう環境下では、子どもたちは素直に自分の気持ちを表現することができません。
行き場をなくした感情は、ゆがんで違う感情になるか、他の誰かを非難したり、攻撃する形で外に出てきます。
このまま成長すると、感情表現に問題を起こすか、感情を感じるというシステム自体に異変をきたしてしまい、正常な自己認識ができなくなって、健全な人間関係が構築できずに困ることになります。
☘ 機能不全家族の中で育つと?
機能不全家族で育つ子どもは、安心して子どもらしく育つことができず、親からもらうべきものをもらわずに大人になることを強いられてしまいます。
機能不全家族の中で育った影響が顕著に表れ始めてくるのは20代半ばくらい、仕事について何年か経ったくらいからです。
学童期は、それこそ一つの役割を果たすことに必死で、その努力のお陰でそれなりに家族という組織を保つことができます(この段階で問題が表面化して(子どものSOSを周囲がキャッチして)第三者が介入することができた家族はラッキー)。
しかし、成人期に入り、いざ家から出て生活してみると、なぜだかわからない孤独感を感じるようになります。
自分一人だけ、周囲から取り残されたように感じて、理由もなく不安になったり、むなしくなったり、恐怖が襲ってきたりします。
人間関係においても、疲労感を感じ安く、すれ違いや軋轢・衝突が多くなっていき、誰も自分を理解してくれないという思いだけが募ります。
人間関係に物足りなさを感じ始め、生活のいたるところに充実感の無さを感じるようになります。
そんな時、周囲を見渡せば、幸せそうに生きている人がいて、なぜ自分だけうまくいかないのか?あの人と一体何が違うのか?なぜこんなにも生きづらいのか?と自問するも答えは分かりません。
それでも、幸せになりたいという強い思いに突き動かされ、人とのつながりを求めていろいろな努力をしてみますが、結局同じような人と出会い、結局同じようなパターンになってしまいます。
こういう状態の時に、心を埋めてくれる存在(たいていは依存対象物;アルコール・ドラッグ・ギャンブル・ホスト・共依存相手・食べ物・ゲーム・スマホ・セックス・万引きなど)に出会うことで、つかの間の心の平穏を手に入れたと勘違いしてしまい、そこから抜け出せなくなってしまうのです。(※依存症についてはこちらを参照「依存する子どもたち」)
そのまま行くと、親と同じように依存症を繰り返すことになるか、結婚して子どもを授かったとしても親と同じような機能不全家族を作り上げてしまい、世代間連鎖が完成します。
この世代間連鎖こそが、機能不全家族の一番の問題点なのです。
機能不全家族は代々受け継がれてきた家族全体の習慣や風習に基づいているうえ、現代の核家族化で家族がどんどん閉鎖的になっている中で、家族内の誰かが問題に気づくことも、外部が気づいて介入することもとても難しく、家族自体がこの問題を問題として認識することが難しいのです。
そもそも、機能不全家族で育った子どもは、機能している健全な家族関係を知りませんし、見たこともありません。
普通の家族とか良好な家族関係というものに対しては、ボヤーっとしたイメージしか持てず、存在自体が疑わしい、都市伝説のように思っている人もいるほどです。
自分が知らない、イメージすらできないような家族関係を築いていくのは現実的ではなく、たとえ同じようになりたくないと思っていたとしても、気づいたら同じような機能不全家族を築いてしまっていたということが多いのです。
このように機能不全家族は、いとも簡単に世代間連鎖してしまいます。
日本の家族の約80%が機能不全家族を世代間連鎖で受け継いできて、それをまた後世に残そうとしていると考えたら、とても怖いことだと想像がつくと思います。
次回のコラムでは、機能不全家族に関する『簡単チェックリスト』をご紹介いたしますので、興味がある方は、是非チェックしてみて下さい。
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