親であれば誰しも子どもについての心配や不安を抱えているものですが、その不安や心配が行き過ぎてしまい子どもの自由を知らず知らずのうちに奪っているケースがあります。
今回は、心配性なお母さんとその娘さんの例を挙げながら解説していきたいと思います。
健康状態を気にし過ぎる母親
小学校5年生のA子の母親はとても心配性でした。特に、A子の体に関してはとくに敏感で、「今日は風邪をひいているんではないか?お腹の調子が悪いのではないか?気分が憂うつなのではないか?」など、まるで保健室の先生のように心配していました。
「A子、きょうは元気ないけど大丈夫?学校へ行ってから辛くなっちゃうんじゃない?」「さっき咳をしていたけど、熱をはかってみて。もしも咳がひどくなって寒気がしたら、先生にそう言って早く戻っておいでね」「さっき、お腹の具合が悪いと言っていたけど、大丈夫かな?学校へ行ってからお腹が痛くなったら、すぐ保健室の先生のところへ行くのよ」とこんなふうに、A子の健康状態をいつも心配していました。
A子も、幼いときからこの母親といつも一緒なので、最大の関心ごとは自分の健康状態なのです。
そのためにA子は、たとえば、学校の往復の途中で、急に冷え込んで寒い思いをすると、とたんに「あっ、いよいよ風邪をひいたんじゃないか」という心配が起こってしまうのです。
学校の給食を食べていても、これは普段と違った味がすると感じると、「もしかしたら何かの雑菌がついていたんじゃないか?腐っているんじゃないか?」と、急に心配になってしまい、心配が高じると、本当にお腹が痛くなってしまうのです。
そして保健室へ駆け込み、「先生、寒気がするんです」「お腹が痛いんです」と訴え、しまいには「もう早くうちに返して下さい。うちに帰って休養したいんです」ということになり、肝心の授業に出られなくなってしまったのです。
A子がとうとう登校拒否の状態に陥ったのは、このような体の故障についての心配が、異常なまでに高まった結果でした。
最初は、インフルエンザで1週間近く学校を休みましたが、それからというもの、やれ微熱が出た、やれ咳が出た、頭が痛い、など色々なことが心配になって、学校を途中で早帰りしたり、朝どうしても起きられなくて、学校に行けなくなってしまったのです。
体のことをいつもクヨクヨ心配するノイローゼ状態になって、それが学校に行くと体が故障するという考えになってしまいました。
A子が学校ぎらいになってしまった背景には、こうした神経質で心配性な母親の性格が大きく影響していたのです。
こういったケースでは、まず母親の高い不安気質を何とかしなければいけません。
不安の高い方というのは、そもそも深層心理に、「死の恐怖」を抱えていることが多く、心理療法ではこの点を丁寧に扱っていきます。
A子のお母さんは、実は小さい頃に、たいへん大きな手術をしており、「死」という存在を間近に経験していたのです。
だから、A子の健康状態が過剰に心配になり、何でもかんでも先回りしてしまい、結果的にA子の世界観にまで入り込んでしまったのです。
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