目 次
皆さん、こんにちは。
子育てに役立つ心理学シリーズ、最終回です。
「勉強しなさい!」は実は逆効果? ~心理的リアクタンス~
「ダメ!」と言われるほどやりたくなる、「やれ!」と言われるほどやりたくなくなる、という経験はありませんか?
昔話の「鶴の恩返し」で、「絶対に見ないで下さいね」と言われた若者が最後に障子からのぞいてしまうというシーン。
「勉強しなさい!」「いい学校に入りなさい!」「将来は○○(職業)になりなさい!」などと、言われれば言われるほどやる気がなくなる不思議。
これらのエピソードには、実は「心理的リアクタンス」という心理学の法則が隠れています。
人は本来「自分のことは自分で決めたい」という欲求(支配欲求)を持っていて、身の回りのことや自分の進む道は自分で判断したいと思っています。
ですが、他人から「それはダメ」と禁止されたり、「これをしろ!」と押し付けられると、自分で判断する自由が制限され、自分の価値が否定されたように感じて、強いストレス下の状態になります。
そしてこのストレスを受け続けると、「自分のことは自分で決めたい!」という本能がいつも以上に強くなり、反発して真逆のことをやりたくなるのです。
この反抗したくなる心理のことを「心理的リアクタンス」と言います。(リアクタンスとは英語で「反抗」という意味)
反対のことをしたくなるのは、本能なんですね。
自己決定力を育む声掛け
パターンA:
親: 「ゲームばっかやってないで、さっさと勉強しなさい!」
子: 「うっせーな、今やろうとしてたんだよ!」(反発したくなる)
親: 「親に向かってその口のきき方は何よ!キー!」(更なる反発を生む)
パターンB:
親: 「今日は勉強どうするの?」
子: 「このゲーム終わったらするよ。」
親: 「そう。そのゲームどれくらいで終わるの?」
子: 「多分、あと30分くらいかな?」
親: 「分かった。じゃあ、それ自分で決めたんだから、守ってね。ママも今から頑張って夕飯作ろっと。」(後は何も言わずに見守る。多少遅くなっても自分から始めたら、「よく始められたぞ」と一声かけるとより効果的。一方で夕飯作りは作業興奮ではかどる。)
あなたの親子の日常はA・Bのどちらのパターンに近いですか?
ストレートに「勉強しなさい!」と言うと心理的リアクタンスが働いて反抗してやりたくなくなってしまう(A)ので、
「今日、勉強はどうするの?」
「今からやる?それとも後でやる?」
「勉強するかしないかは、自分で決めたらいいと思うよ」
と自分で決定できるような質問を投げかけ(B)、子どもの決定を邪魔せずに応援するというスタンスでいるとスムーズに取りかかることができるかもしれません。
これを繰り返すうちに支配欲求が満たされ、指示待ちではなく、自分で決めて自分で行動できる自己決定力が育ち、言われなくても自分から勉強を始めるようになるでしょう。
思春期に「いい子」で居続けることの危険性?
支配欲求を意識し始めるのは思春期の頃からなので、それまでは親の言う事をよく聞く「いい子」だったのに突然反抗するようになって親を困らせる背景には、心理的リアクタンスが隠れていることがあります。
思春期に反抗できる子はまだ良くて、一番心配なのは思春期も無理して「いい子」でい続けて来た子です。
これらの子どもたちは自分の支配欲求が満たされず、欲求不満のまま成長し、大人になって初めて挫折を味わうことで、親や周囲に対して支配欲求を爆発させていきます。
「俺(私)がこうなったのは、お前ら(親)のせいだ!責任取れ!」などと訴え始め、ひきこもったり、要求が増えたり、暴力・暴言が増えていきます。
その結果、子どもが親を奴隷のように扱ったり、他者関係が「支配する」・「支配される」の二極化してしまい、対等で健全な人間関係を築くことが難しくなってしまいます。
思春期の子どもにあれこれと支持するのは逆効果になることがあるので、気を付けておきたいですね。
認知的不協和
最後の心理学は「認知的不協和」です。
認知的不協和とは、自分の心と行動に矛盾を抱えている状態のことを言います。
人は誰しもある程度の矛盾を抱えて生きていますが、不協和の状態は不安やストレスを感じやすいので、自分にとって一番都合のいい形(根拠がなくても)で解決し、納得しようとします。
分かりやすいケースは、「ダイエットしなきゃと思いつつ、目の前に大好きなケーキがある」というものです。
この矛盾を解決するために以下の方法を取ることが考えられます。
- ケーキを食べて、食事を減らす(行動を変える)
- ケーキ1つくらいなら、大丈夫。ダイエットはまた明日からやればいいや(考え方を変える)
- ケーキの上のフルーツが消化を促進させる(新しい情報を加える(根拠はないが))
- ケーキのカロリーは見ない(不利な情報を避ける)
認知的不協和は子育てに起きやすい?
認知的不協和を子育てに当てはめて考えてみましょう。
子どもの「ありのまま」を見てあげることが大切だと思いながらも、世間一般の常識(世間体)を気にして、「普通に育ってほしい」と思う気持ちが混在していることはありませんか?
そして、この矛盾をなんとかしようとして、苦手を克服させようとしてみたり、同級生が通っている塾に行かせてみたり、人気の習い事に通わせてみたり、他の子と同じような子に育てようとします。(行動を変える)
親からしてみれば「みんなと一緒」であることで不安が払拭されて安心を感じるでしょうが、一方では、子どもの気持ちが置き去りになってしまうことが懸念されます。
他にも、子育てセミナーに参加したり、熱心に情報収集をして、新しい情報を得ることで矛盾をなんとかしようとする方法もあります。(新しい情報を加える)
いくら有益な情報が得られても、自分の中にある不協和状態に気が付いていなければ、適切に活用することができず、「もっともっと」と情報だけを求め続けて「セミナー難民」になってしまうことになりかねません。
「ありのまま」を望む気持ちと「普通」を望む気持ちはどっちもあっていい
頭では「人は人、ウチの子はウチの子」と理解していても、なかなか子どもの「ありのまま」を受け入れられない背景には、認知的不協和が働いていたということは珍しくありません。
相反する二つの気持ち(「ありのまま」と「普通に」)を抱くことは自然な心理なので、それを自分にとって都合の良い形で払拭しようとする親御さんが悪いわけではありません。
しかし、親自身の不安に耐える力(不安耐性)が弱かったり、周囲のプレッシャーが強すぎたり、逆に孤立して全く周りが見えなくなったりすると「この不安な状態をなんとかしなきゃ!」という気持ちから「自分にとって一番都合の良い方法で解決しようとする」という心理が強く働いてしまいます。
これが間違った方向に行き、子どもの意志を無視して「世間体」を気にしすぎた結果、虐待などの問題に発展しかねません。
親自身が、矛盾する気持ちを「どっちもある」「どっちもあっていいんだ」と思って対応することができると、今までのやり方とはまた違った成果が得られるかもしれません。
育児を助ける心理学シリーズのまとめ
4回に渡ってお届けした心理学シリーズ、いかがでしたか?
今までの育児で感じていたナゾが解けたり、お家で使えそうな法則が見つかったとしたら幸いです。
アフリカのことわざに「ひとりの子どもを育てるには村中みんなの力が必要」というものがあるそうです。
今日本では、お母さんが一人で頑張る「ワンオペ育児」なんて言葉が流行っていますが、その対極にある言葉だと思います。
子育て中のお母さんやお父さんが、村中みんなの力をいつでも気軽に頼れるような、そんな社会を築くためには、まだまだ努力が必要ですね。
私達も、村人の一人になれるよう、これからも精進していきたいと思います。
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